虫のしらせ

私の母はいわゆる「霊感」が鋭かった人で、「夢を見たので・・・」と言ってはよく私に電話して来ました。あまり良い夢ではなかった時には、あたかも本当にあったかのような話ぶりで心配してくれました。母なりに遠くに住んでいた私を気遣ってくれていたのだと思います。

 

世の中には「虫の知らせ」という言葉があります。道教では人間には三尸(さんし)という3種類の虫(上尸、中尸、下尸)が体内にいると考えられていたそうで、その虫が体内から外に出るとその人は死んでしまうと。そんな訳で他の人に「虫の知らせ」があるという事は虫が外に出る→死ぬ時となる訳です。

 

吉田松陰の一番上の妹千代は明治41年9月のインタビューでこんな話をしています。(以下、綱淵謙錠氏の幕末風塵録から)

 

兄の寅次郎(吉田松陰の幼名)が永の訣れを告げたあの日。寅次郎の母は父にこう語りました。


「いま、妙な夢を見ましたわ。寅次郎がとても良い顔色で、むかし九州の旅から帰ったときよりも、元気のよい姿で帰って来たのです。あら嬉しや、珍しやと、声をかけようとしたところが、忽然と寅次郎の影は消え、醒めてみると夢でしたわ」
すると父は
「わしも夢から醒めたところだ。わしはどういうわけか知らんが、自分の首を斬り落とされたのだが、それがとても心地よかったのだよ。首を斬られるとはこんなにも愉快なものかと、感心したところさ」
それから二十日ほどして、江戸から便りがあり、寅次郎の死を伝えて参りました。そして両親があの日の夢を思い出し、指折り数えてみますと、日も時刻もピタリと重なるのでした。

 

ちなみに私は「虫の知らせ」と言われるようなことを経験したことはありません。無くて幸せです。