夢酔独言

コロナ禍の「自粛要請」を受けて、静稽会は稽古を中止しています。また梅雨のはしりもあって空いた時間はもっぱら読書、あるいは映画、ドラマを観るなどして室内で過ごす日々です。

考えてみれば「自粛要請」という言葉も妙な感じではありますが、腰を据えて本を読めるというのは良いことです。

先日、大好きだったNHKドラマ「小吉の女房2」が終了してしまいました。この機会にドラマの元になっているものを読もうと図書館で本を借りてきました。

勝小吉著「夢酔独言他」平凡社東洋文庫138

小吉のありのままの自伝です。
話し言葉で書かれています。ドラマの中に出てきた話もあってするすると読めました。

テレビドラマの中では小吉は一本筋の通った正義の味方的な描かれ方をしていましたが、読んでみると随分と違いました。

若い頃の小吉は乱暴狼藉の限りを尽くしています。多くは悪行の話です。ケンカ、放浪、窃盗、詐欺など悪いことばかりです。

自身もこんな風に書いてます。

「おれほどの馬鹿なものは世の中にもあんまり有るまいとおもふ -中略- 不法もの、馬鹿者のいましめにするがいいぜ」

この小吉の放蕩は年を重ねてもなかなか治りません。「改心しろ」と言われても「此上に改心は出来ませぬ。気が違いはせぬ」と聞きません。

とうとう兄から庭に二重囲いのオリを作って(実際に作った)小吉を押し込めると言われ、とうとう37歳で隠居させられてしまいます。そして42歳で「夢酔独言」を書きます。

小吉は何度か死にかけています。
おそらく何度か死んでいるのだと思います。
そんな「死人」の小吉が「したいほどの事をして死のふとおもつた」訳ですからもう誰も止められません。
これは「生涯不良」を高らかに謳った書物でもあります。ちょっと憧れます。

それでも最後には「昔の事をおもふと身の毛が立つよふだ」「男たるものは決而(けっして)おれが真似おしなゐがいい」と勝手なことを書いてます()

小吉は49歳で亡くなります。
激動の幕末に活躍した勝海舟はそんな親の生き様を見て育ったのだと思うと歴史のリアリティに触れたような気がします。