「競う心」と「競争社会」

2021年6月15日の日経新聞の夕刊「あすへの話題」に前法政大学総長の田中優子さんが「競う心」という題でこんなことを書いてました。

 

お兄さんの結婚式に出席していた田中さんは一緒に出席していた小学校の先生から「お兄さんに負けないように頑張ったんだね」と言われたそうです。

 

その時点で大学院に行くことになっていた田中さんに対する「褒め言葉」だったのでしょう。しかし、田中さんはその言葉が腑に落ちなかったそうです。

 

田中さんは先生のその言葉がお兄さんと自分が「競争しているだろう」という思いから発せられていると想像します。

 

田中さん自身は好きな勉強(田中さんの専門は江戸文学です)に夢中になっていただけでお兄さんと「競争」している意識は全くなかったそうです。

 

そしてこう結んでいます。

 

「学生を見ていても競争心より好奇心の方が期待できる。わくわくと向き合うものを見つけた時にこそ、力を発揮するのだ。「負けないよう頑張る」とはなんとつまらない言葉だろう。人をごく狭い視野に閉じ込める呪文である。競争の彼方にこそ、新しい道が開けているのに」

 

そして同じ日経新聞の6月17日の夕刊「明日への話題」には「競争社会」と題して、前公正取引委員会委員長の杉本和行さんがこんなことを書いてます。

 

小学校の運動会の徒競走で順位をつけないために全員が手をつないで一緒にゴールするという教育現場を経験した子供たちがその後、どういう人材に育ったかという報告があるそうです。

 

競争を否定する教育を受けた人たちは利他性が低く、協力に否定的で、互恵的ではなく、やられたらやり返すという考えを持つ傾向が強いそうです。

 

杉本さんはそれを「競争によって個人の能力を磨くインセンティブが与えられる。それが他の人の能力を評価することにつながり、それぞれに異なった能力を持った人たちが力を合わせることの必要性が認識されるようになる」と解説しています。

 

まあ書いている人のバックボーンが一方は和の江戸文化を専門とする学者、片方は競争を前提とする元公正取引委員会委員長ですから、なんとなくそうなるのは理解できます。

 

果たして力を発揮するのは好奇心か?競争心か?

個人としての力なのか?社会としての力なのか?

 

確かにみんなが一緒にゴールする徒競走は面白くないでしょうね~


学校だけ競争を無くしても、世の中から競争を無くすことは出来ません。


しかし競争だけを動力に生きている人はつまらないと思うのであります。