切腹の現実

前回、歌舞伎などでは「九寸五分」は切腹を意味すると書きました。歌舞伎や芝居などで観る切腹は美しく描かれますが、現実はどうなのでしょうか?

 

私たちが知っている現実の「切腹」で思い浮かべるのは1970年市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部での三島由紀夫氏の自刃事件です。

 

三島由紀夫氏の切腹は臍の下あたりを深さ5cm、横に13cmも切っていたそうです。介錯による傷は首に3箇所、肩に1箇所あったと記録されています。

 

天保年間に書かれた「自刃録」という書物には切腹のやり方が以下のように書かれています。

 

「臍の上一寸ばかりの上通りに、左に突き立て、右に引き廻すなり。あるいは臍の下通りが宜しと云ふ。深さ三分か五分に過ぐべからず。それより深きは廻り難きものなりと云ふ」

 

切腹で最初に刺すのはせいぜい1.5cmくらいまでで、それ以上深いと腹は切れなくなると言っているわけです。

 

三島由紀夫氏は最初に深く刺し過ぎたために姿勢が崩れたか、身体が意志に反して反応してしまったため介錯の刀が外れたのだろうと言われています。

 

当時の三島由紀夫氏の写真などを見ると腹回りなどはほぼ贅肉が無さそうな体つきです。おそらく脂肪部分が少なかったため腹筋まで切ったのではと想像します。

 

腹筋を切れば腹膜が内蔵の圧力に耐え切れずにはみ出し、腹壁が崩れてさらに刃は切れにくくなるはずです。また筋肉が硬直したり激痛によって意識を失うかも知れません。そんな状態の切腹人を介錯するのは至難の業です。

 

劇中での切腹とは違って、現実は切腹する方も介錯する方も阿鼻叫喚の陰惨な状況になったはずです。