2年ほど前に高齢者を中心にした居合稽古会「健美居合会」の活動が始まりました。1名も欠けることなく現在も稽古を続けています。
稽古内容は静稽会の稽古をベースにしつつ、目的は武術習得よりも健康に資することに重点を置いた稽古内容にしています。
最近「フレイル」と言う言葉をよく耳にします。
「健康」な状態と加齢による「要介護」状態の中間の段階のことを言うそうです。
今は日常生活で困るような問題は抱えていないもののところどころ「体のほころび」は感じており、このまま何もしないでいるとおそらく将来何らかの支障が出てくる気がする・・・
50歳代あたりからそんな思いを抱える方は多いと思います。
スポーツジムに通ったり、走ったり、歩いたり・・・みなさんいろいろ努力をしているようですが、なかなか続かないのが現実です。
やはり「健康のため」だけの運動ではなく、やっていること自体に何か本来価値が見出せないと継続のインセンティブにはなりにくいのかもしれません。
そこで多彩な日本文化を内包する居合を楽しみながら稽古しつつ「フレイル」予防をしていこうというのが「健美居合会」の目的です。
ただ武術経験のない高齢者の稽古に多くのことを盛り込むのは難しいです。
高齢者がある程度の稽古が出来るようになるためにはまず肩甲骨と股関節周辺の筋肉をつけつつ可動域を広げていくことが必要です。
そのために「プレ」稽古から始めました。
2年ほどかけて「本」稽古へと徐々に階段を上がっていきます。いきなり木刀ではなく、軽くて少し短い丸棒を使いながら木刀素振りのための体慣らしから始めました。
腕ではなく全身を使って振ることを主眼にしています。
今では木刀を使って稽古しています。
木刀を振ると肩甲骨が動いて、胸が開き、呼吸を深くしていきます。
また木刀の握り方なども小指から背中まで通る流れを意識することで姿勢を正しく保ちます。
どうしても高齢者は筋肉の衰えとともに巻き肩、猫背になりがちです。最近はスマホを使う高齢者の方も多く、ストレートネックになっている方も見かけます。
顔が前に落ちている高齢者が多いです。
猫背、巻き肩に加えて顔が前に落ち込む姿勢は胸が圧迫されて呼吸にも影響が出ます。
呼吸が浅くなると血液が十分に全身に回らずに集中力低下、動脈硬化、臓器不全、倦怠感、不眠などを引き起こすと言われています。
そこでまず座ることで姿勢を整え、呼吸を意識することで体への感覚を研ぎ澄ましつつ横隔膜も鍛えます。
股関節には四股、膝行、蹲踞、脚の外旋内旋運動なども取り入れました。
そしてなにより健康に良くないのは「孤独」です。
一日中誰とも話さないという高齢者は多いです。
「健美居合会」に来て気持ち良く体を動かし、みんなと楽しく話す、私はこれだけでも十分フレイル予防に資すると思っています。
ちなみに「健美居合会」最高齢は82歳の男性です。ほとんど休まず通って熱心に稽古しています。
木刀も大きく振れていますし、基本の形も覚えています。
私は頭と体を連動させる稽古は認知症予防にもなると思っています。
稽古が健康をカバーする範囲は思ったよりも広いかもしれません。
そして何より一番大切なことは楽しく稽古することです。
辛い稽古は脳が拒否して続きません。
82歳最高齢男性の言葉です。
「やっぱりいくつになっても出来なかったことが出来るようになると嬉しいし、それを褒められると嬉しい。もっと動けるようになろうと頑張れる」
最近の翡縁会HPの7月28日付「稽古つぶやき」「奉納演武への道-前編-」にも書かれていました。
稽古の目的では一つではないと思っています。
翡縁会HP「稽古つぶやき」
https://hien-kai.blog.jp/archives/29228121.html