黒書院の六兵衛

10年以上前に日経新聞に連載された「黒書院の六兵衛」という小説がありました。

作者は浅田次郎さんです。

 

江戸城明け渡しが決まった後も無言で居座る御所院番士の的矢六兵衛とそれを取り巻く人たちとのやり取りが描かれています。もちろんフィクションです。

最近になってその小説がドラマ化されていることを知りました。

 

主人公の六兵衛を演じたのは吉川晃司さんです。

ドラマの中では六兵衛のセリフはありません(最後の一言くらい)

所作や目の動きなどだけで武士の矜持や心情を表現しています。

連載小説を読んでいたのでドラマのストーリーはわかっていました。よって私の関心はもっぱら六兵衛の所作でした。

例えば食事、膝行、礼、歩き方など武士の所作はどうか?の一点でした。

 

吉川晃司さんは相当稽古を積んだのではないかと思われます。

特に膝行はお見事でした。

私も稽古前に準備運動的に膝行はやりますが、その膝行とは少し違います。礼法に適った膝行と理解しました。

少しもブレずに最小限の動きで静かに進みます。

実に美しい!

 

握り飯を食べる所作にさえ武士を感じました。

またドラマの中では六兵衛がひもじさに苦しんだ経験があることが垣間見えるシーンも出てきます。

これまでの武士の所作をかなぐり捨ててうなぎを食べるシーンでは口からよだれを垂らしながら、なりふり構わずうなぎをかきこみます。

その対比が実に心に沁みました。

 

私の中では動のイメージが強かった吉川晃司さんですが、静かな動きの中に確かに武士を感じさせてくれました。

 

実は六兵衛は本来の武士ではなさそうです。金で御家人株を買った「金上げ侍」と侮られています。

浅田次郎さんは「黒書院の六兵衛」で「壬生義士伝」などと同じ問いかけをしているようです。

 

武士の義とはなにか?

武士の誇りとはなにか?

武士の情けとはなにか?

 

「この金上げ侍が!もう幕府は無くなったのだ!おぬしはもう幕臣ですらない!なのになぜ居座り続けるのだ!」

 

その通り・・・でももうそんなところに六兵衛は居ないのかもしれません。

 

現代にはもちろん侍も武士もいません。

しかしそんな現代にも刀を差して稽古している「六兵衛」がいます。